こんにちは。きのひです。
「燦(さん) 7」 あさの あつこ 著 を読みました。
2016年5月10日 第1刷
「奥方さま」
「ただ今、殿さまがお帰りあそばされた由(よし)にございます」
前藩主が逝去しました。
筆頭家老である伊佐衛門(いざえもん)は新藩主を迎え入れるためずっと城に詰めていた。
帰宅してきたのは久々のことです。
八重は立ち上がり廊下に出ました。
伊佐衛門は庭にいた。
「旦那さま」八重が呼びかけるとゆっくりと振り向きました。
「まあ・・・あなた・・・」
振り向いた夫はひどく面窶(おもやつ)れしていた。
もともと痩せていた身体はさらに細くなり枯れ木を思わせます。
目の下の隈(くま)も痛々しい。
「八重、茶をくれぬか」
「・・・はい。ただいま」
伊佐衛門は廊下に腰掛けると空を見上げました。
「さっき、玄鳥が飛んでおったぞ」
「燕(つばめ)が?それは、些か早うございましょう」
「まだ桜の蕾(つぼみ)もほころんでおりませんのに」
「そうか。早いか」
「では、わしの見間違いであったかのう」
「燕をお待ちでございましたか」
玄鳥ってツバメのことなんですね。
「暦生活 日本の季節を楽しむ暮らし 2022.04.06」 七十二候/玄鳥至(つばめきたる)
「燕は日照時間の長さを感知して渡りを開始するため、天候や気温に左右されず毎年同じ頃にやってきます」
「七十二候の春と秋に二回『玄鳥至(つばめきたる)』と『玄鳥去(つばめさる)』が入っているのはそのためです」
玄鳥の「玄」は黒を意味する言葉で、燕の古名はツヤのある黒を意味するツバクロ。
「よくみると真っ黒ではなく青光りしているとても美しい羽根です」
燕子花(かきつばた)はちょうど燕の子が舞い始める頃に咲く。
「濃い青紫の花びらが羽を広げた子燕のようにもみえます」
燕たちはインドネシアやフィリピン、オーストラリアから数千キロの旅をして飛んでくる。
「敵に見つからないように一羽ずつ、海面すれすれに飛んできます」
渡りの時の平均時速は50~60キロ。
鳥としてはかなりのスピードです。
到着すると休むこともなく巣の修復を開始する。
「昨年の燕が同じ巣を使うとは限りませんが基本的には同じ地域に帰ってきます」
燕の子育ては1回目が終わると2回目、多いときは3回目もある。
「先に巣立った若い燕やなんらかの事情で子育てできなかった燕も親鳥を助けヘルパーに入ることで知られています」
tenki.jp 2016.04.05 ホシナ コウヤ さんによると「叔母はツバメのことを『ツバクロ』と呼んでいた」
古語では「竹取物語」に「石上中納言には『燕(つばくらめ)のもたる子安貝一つとりて給へ』といふ」とあります。
「ツバクラメ」これは一説では「ツバ」(光沢のあるさま)「クラ」(黒)「メ」(スズメ・カモメなど群れなす小鳥につく接尾語)
「つやつやした黒い小鳥」ということだとか。
「でもそうするとカラスも『ツバクラス』とどうしていわれないのか」
(カラス、ウグイス、ホトトギス、キジの古語のキギスなど「ス」も鳥につく接尾語です)
「物類称呼」(江戸時代後期の全国方言辞書)には「つばくらめとは土くらひの和訓也と、篤信翁の説也」とある。
「つまり『ツバクラ』とは『土を食らう』から来ている、ということ」
ツバメの一番印象的な生態は泥と藁を「唾」で固めた独特の巣作りだからこの説も有力です。
「私見を述べると『ツバ』は唾のことで『クラ』は『蔵/倉』だと考えている」
日本人は古くから住まいの土壁を水と土と藁とを混ぜて作りました。
「人と同じように住まいを作るツバメの姿をみて、驚異と親愛を強く感じたにちがいない、と思うのです」
ところで八重さんの「燕をお待ちでございましたか」のかえし、見習いたいです。
自分にはとっさにでてこない発想だったので。