こんにちは。きのひです。
「柿のへた」 梶 よう子 著 を読みました。
2011年9月10日 第一刷発行
御薬園同心(おやくえんどうしん)の水上草介(みなかみそうすけ)が二十歳で水上家の跡を継いでから二年。
初めて出仕した日、手足がひょろ長く吹けば飛ぶような体躯(たいく)の草介を見て「まさに名は体だ。水上草介、水草どのだな」と古株の同心が笑いました。
以来、水草があだ名のようになっているが草介はあまり気にしていない。
もともとのんびりした性質(たち)で草介自身がこの性格を疎(うと)んじているわけではありません。
御薬園の水路でほわほわと揺れ動く水草をむしろ愛(いと)おしく眺めている。
水上家は代々薬園に勤めているため草介も幼い頃から本草学(ほんぞうがく)だけはみっちり学んできています。
ある日、千歳(ちとせ)から吃逆(しゃっくり)を止める薬がないかきかれました。
千歳は御薬園を預かる芥川小野寺(おのじ)の娘。
黒々とした眉をきゅっと上げ若衆髷(わかしゅまげ)を結い袴(はかま)姿で剣術道場に通うお転婆(てんば)です。
それは自分のためではなく「わたくしがお世話になっている道場に通う有坂寅之助(ありさかとらのすけ)という十四歳の少年のため」でした。
「寅之助は剣術の才に溢(あふ)れています。しかもそれに驕(おご)ることなく稽古にも熱心で、大人でさえ手こずるかなりの実力者です」
「それなのに気が弱いのです」
「打ち込みの稽古やわたくしとの組太刀では実力をいかんなく発揮できるのに子ども同士の試合にこれまで一度も勝ったことがないのです」
そのため彼の父の眼には「寅之助は剣術が弱い」としか映らない。
「これ以上負け続けたら寅之助はまことに自信をなくしてしまいます」
「それにお父上の忠右衛門さまが此度で結果が出せぬならば剣術をやめさせるともいっておられるのです」
草介は寅之助に会ってみることにした。
翌日、陽が落ちかかる頃になって千歳が寅之助を伴って草介の長屋へやって来ました。
「有坂寅之助と申します。水上さま、此度はお世話になります」
背筋をぴんと伸ばして丁寧に頭を下げた。
草介もあわてて頭(こうべ)を垂れます。
十四にしては長身で千歳よりも三寸(約九センチメートル)ほど大きい。
すっきりとした顔立ちといい、大身旗本の子息らしい育ちのよさというか鷹揚(おうよう)さが身についています。
「吃逆はかなり辛いですか」
はいと寅之助は小さく頷いた。
「試合の真っ最中に出るのですか?」
「じつは前日から出ています。試合のときが一番ひどくなります」
普段から胃の腑が痛むとか胸が苦しいとかがないことを確認して草介が提案したのは「柿蔕(してい)湯」だった。
昔から吃逆に効くといわれている煎じ薬です。
柿蔕湯は柿のへたを乾燥させたもの。
「柿というのはまことに素晴らしい樹です」
幹は固く家具や道具になり葉は茶にして卒中の予防などし柿渋(かきしぶ)もうちわ、傘に塗って紙を強くする。
「実は酒を呑みすぎたときに食べるとよろしい」
「なにより柿は、嘉(よい)が来ると当てて、嘉来(かき)とも記される縁起ものなのです」
「渋柿」ではなく「柿渋」
どんなものに使われているんでしょうか。
「柿渋屋」さんである「トミヤマ」さんの記事がありました。
柿渋とはまだ青いうちに収穫した渋柿の未熟果を搾汁し発酵熟成させたもの。
「日本では古くからこの柿渋を塗料や染料あるいは万能民間薬としてマルチに活用してきました」
柿渋の主成分は柿タンニン。
柿タンニンとは「柿渋の主成分である高分子ポリフェノールのこと」
ポリフェノールは植物が虫や菌などの外的ストレスから自己を守る「防御物質」のひとつです。
柿タンニンには多彩な効能がある。
・悪臭成分と結合して臭いを絶つ
・アセトアルデヒドと結合し吸着して排泄する(アセトアルデヒドは二日酔いや悪酔いの原因のひとつです)
・人の体内の細胞や組織を老化させる「酸化」を抑える抗酸化性がある
・重金属や貴金属イオンと強く結合する(金属成分を回収したり放射性物質を吸着除去する技術の研究)
・ウイルスの増殖抑制効果
「渋柿」の実を染料につかうとか。
気づいた人すごいです。