こんにちは。きのひです。
「ひとりじめ」 浅田 美代子 著 を読みました。
2021年9月15日 第1刷発行
2021年10月15日 第4刷発行
著者は生まれも育ちも東京の麻布。
高校2年生のある日、神宮外苑イチョウ並木で突然声をかけられました。
「芸能界に興味はありませんか?」
そこはきちんとした芸能事務所で真摯(しんし)なお誘いだった。
後日その人は何度も自宅まで訪ねてきてくれました。
誘ってくれた事務所からテレビドラマ「時間ですよ」のオーディションの話を持ちかけられた。
どうせ受かるはずがないと思った両親と「これに落ちたら二度と芸能界のことは口にしない」という約束をして一度だけ挑戦させてもらいました。
2万5千人の応募者がいたのに結果は合格。
この日を境に著者の人生は大きく変わりました。
樹木希林さんと出会ったのはその運命の日。
当時、悠木千帆(ゆうきちほ)と名乗っていた希林さんは審査員の一人だった。
希林さんは著者を選んでくれた人のうちの一人でした。
著者にとって希林さんはお芝居の師であり、同志であり、姉や母のような存在でもあります。
人生の折々で助けられ深い部分で繋がってきた。
17歳で希林さんと出会ってから46年間。
結婚していた7年間は疎遠になっていたけどそれ以外はごく自然に一緒にいました。
著者は28歳で離婚してからは気ままに一人暮らしを楽しみながら仕事と恋愛に夢中だった。
そのせいか40代までは自分が年齢を重ねているという実感が今ひとつもてませんでした。
鏡を見るたびに小さな憂鬱の種が増えていったのは、おそらく50歳を過ぎた頃。
老いることに現実味が増して急に怖くなった。
確実に時は流れ続け肉体は少しずつ朽(く)ちていく・・
そんな著者の葛藤を、おそらく希林さんは気づいていた。
「人間って経年とともに変化していくから面白いんだよね」
「50歳を過ぎたら50歳を過ぎたなりの、60歳を過ぎたら60歳を過ぎたなりの何かいい意味での人間の美しさっていうのがあると思う」
「老いていくことを楽しまなきゃ」
年齢に沿って変化していくことを受け入れて面白がりその時々の生き方を自分で見つけていくしかない。
そんな風に老いていく自分を面白がって観察したり向き合ったりを続けていたら、いつの間にか「その恐怖を乗り越えられていたように思う」
60代の今は「『どう見られたって構わない』という境地にたどり着いたような気がする」
心の底からそう思えるようになったのはやはり希林さんの生き方をみてきたから。
希林さんと出会ってから46年。
お別れはあっけなく訪れました。
全身癌を患いながらもそれまでは普通に暮らして仕事をしていた希林さんから「食欲がなくなってきた」と聞いたのは2018年の春のこと。
夏になって希林さんは大腿骨を骨折して入院することになりました。
転んだりぶつけたりしたわけではなく、骨がもろくなっていた。
およそ1ヶ月の入院の後、一時の危機は脱したものの回復したわけでもないのに退院して自宅療養することを決めた希林さん。
著者は退院に付き添い自宅まで行きました。
希林さんはすでに食べ物を飲み込むことができない状態だったけど、細かく刻んだ葡萄の甘い汁を「おいしいねぇ」と味わっていた。
病室にいる時よりもずいぶんと柔らかくて安心した表情でした。
その顔に安堵して夜の10時ごろに「じゃあ、また明日」と声をかけておいとました。
ところが翌朝、娘の也哉子ちゃんから電話がかかってきました。
「夜中の2時過ぎに逝きました」
著者はお別れから3年が過ぎた今も希林さんの死を飲み込めていない。
何か話したいことがあるたびにお墓参りに行って話しかけています。
「大切な人の死は乗り越えたりするものではなく生涯付き合っていくものなのかもしれない」
「私はこの先の人生も、希林さんと生きていく」
最後の文章を読んでなんだか泣きそうになってしまった。
「希林さん、楽しかった。本当にありがとう。会いたいです」